Fundamental research laboratories for the education of young children

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1.問題の所在と目的

 我が国では、エンゼルプラン以降、低年齢長時間保育が急速に普及拡大してきた。保育の子どもの育ちへの影響については、海外では多数の調査が行われており、また国内でも一部の分野では調査研究が進んでいるが、網羅的な把握がなされていないのが現状である。そのため、各研究によって明らかになった問題点を整理することを通して、低年齢長時間保育と愛着形成との関連の側面から、子どもの精神保健面の育ちへの影響、特に学校生活の諸問題との関連について考察する。

2.低年齢長時間保育の現状

 一般に低年齢児保育と言うと、0から2歳までの子どもの保育を示すが、現在の日本での普及率は、44.4%、OECDの平均は35.9%、EUの平均は34.2%である。(*1)

 保育時間については、日本では、一日11時間が標準保育時間として定められており、それを超える延長保育を95%以上の保育所が実施している。そして、多くの保護者が、勤務時間8時間プラス休憩1時間、行き帰りの通勤に要する2時間を合わせた11時間程度を日常的に利用している。週5日労働が標準であることから、週55時間程度の保育が利用されているということになる。

 これに対し、OECDの平均は週31.5時間、EUの平均は週30.6時間となっている。

 つまり、日本は欧米諸国の平均よりも0から2歳の低年齢児保育が普及しており、保育時間が突出して長時間であるということになる。

3.欧米諸国における保育の影響に関する調査

 欧米諸国で低年齢保育の普及が日本ほど進んでおらず保育時間が短いのは、伝統的な家族観を大切にする価値観などの影響もあるが、各種研究によるエビデンスが蓄積され政策に反映されていることも影響している。

 ロンドン大学教育研究所のSylvaら(2004)による「就学前教育の効果的な提供(EPPE)プロジェクト」では、就学前教育と保育が子どもの発達に及ぼす影響を3171名を対象に縦断的に調査している。そこでは、2歳以下から長期間にわたって保育を受けている子どもに、わずかではあるが反社会的な行動が多く見られることが明らかになっている。またこの傾向は、3歳以降に質の高い幼児教育を受けることで軽減されるが、なくなるわけではないと指摘されている。(*2)

 同様の調査が北アイルランドとノルウェーの農村地域ででも並行して行われたが、そちらでも同様の結果が示されている。

 アメリカでは、NICHD(2006)が出生から学校教育開始までの1000人規模の追跡研究をしている。その結果、生後3-54カ月に保育施設で過ごした期間が長いほど、また保育時間が長い子どもほど、協調性と従順さが低くなり、攻撃的な行動が見られ、小学生になった際の教師との衝突/葛藤も多くなり、学校で教師から問題とされるレベルが高くなる。

 保育のタイプ別にみると、家庭的保育やベビーシッターなどと比較し、保育施設での経験がより多い子どもの方が不従順や攻撃的な問題行動が多い傾向にあり、保育者による評価では、4歳半になるまで週30時間以上保育施設で過ごす子どもは問題行動が多くなる傾向が見られる。(*3)

 カナダのケベック州では、1997年より保育所の定員を拡大し、保護者の就労にかかわらず安価に利用できるようにしたが、子どもの育ちにさまざまな影響が出ている。Bakerら(2019)は、カナダの他の州の子どもと比較した調査を行い、以下のことを明らかにした。認知能力にはほとんど差が見られないが、非認知面に負の影響が見られる。差が見られたのは、まず2-3歳において、不安と攻撃性が強く見られる。また5-9歳になると、多動性、不安、攻撃性、間接的な攻撃が見られ、不安と攻撃性については、2-3歳の時よりも強い影響が見られる。また、10代への影響では健康と人生の満足度に悪影響が出ている。これらの影響については男女差が見られ、5-9歳で攻撃性が特に男子で強く影響し、女子では向社会的行動が悪化している。このプログラムを受けるようになった世代の犯罪率は、他の州よりも被疑者率、有罪率ともに有意に増加している。(*4)

 保育施設の保育を低年齢から長い期間あるいは長時間利用するほど攻撃性が強くなるなど、非認知面、特に精神保健面への影響を示唆する結果が示されている点は、欧米各国の調査すべてに共通している。

4.愛着と感情調整の関連

 子どもの精神保健面の育ちへの影響が現れる側面としてまず懸念されるのは愛着である。愛着は養育者の不在やかかわり方により形成が左右されるが、それにはいくつかのパターンがあることがわかっている。Ainsworthら(1978)は、ストレンジシチュエーションという手法を用いて愛着のタイプを分けたが、その結果、A回避型、B安定型、Cアンビバレント型の3つのタイプがあることが明らかなになった。また、その後、Mainら(1990)により、D無秩序無方向型というパターンも存在することがわかった。(*5) (*6)

 さらに、Borisら(1999)は、安定した愛着から非愛着の障害に至るまでの臨床的な連続性に沿って存在すると考えるべきだとして、5段階のモデルを提案している。それによれば、レベル1は安定型、2は回避型と抵抗型、3は無秩序無方向型、4は愛着基盤の歪み、5は愛着障害である。(*7)

 山下(2021)はこのモデルに基づき、レベル2以降で不安や抑うつ、破壊的行動や自傷行為などの臨床問題に関連していることを指摘している。(*8)

 子どもの愛着形成は、養育者のメンタライゼーションと強い関連があることが、Meinsら(2001)、Sladeら(2005)、Zeegersら(2017)によって指摘されている。また、養育者によるメンタライゼーションが、子どもの感情調整と関連していることを、Senehiら(2018)、Schwarzerら(2021)、Álvarezら(2022)が指摘している。さらに、愛着の安定性が感情調整能力と関連していることを、Stifterら(2014)、Parada-Fernándezら(2021)、Obeldobelら(2022)が明らかにしている。(*9)( *10)( *11)( *12)( *13)( *14)( *15)( *16)( *17)

 つまり、養育者の不在やかかわり方が愛着の安定性に関連し、愛着が不安定になることが感情調整の不全や臨床問題につながると言うことができる。

5.愛着と保育の関連

 愛着に関しては、特定の養育者と離れ、他者に保育されることによる影響について研究が進められている。Belsky(1988)の研究によれば、養育者以外による保育を週20時間以上受けた場合、愛着が安定型でなくなる子どもが多くなることが明らかになっている。また、Hazenら(2014)による調査では、週60時間以上の養育者以外による保育を受けた場合、愛着が無秩序無方向型になる危険が指数関数的に増加することが示されている。(*18)( *19)

 愛着が安定型でなくなる原因には多くのものがあるが、保育時間もその一因になっているということになる。また、無秩序無方向型は、虐待やネグレクトを受けた子どもたちに見られる愛着スタイルだが、長時間保育にはそれに匹敵するリスクがあることがわかる。

6.愛着の学校生活への影響

 乳幼児期に形成された愛着は、その後の精神保健面の安定性に影響するが、それが学校生活へも大きく影響していることがわかってきている。

 近年、不登校の増加が問題となっているが、養育者との愛着が不安定であることが不登校につながっていることを、五十嵐ら(2004)、植木田(2006)、姜ら(2010)、崎田(2016)、林田ら(2018)、安原ら(2020)がそれぞれ指摘している。(*20)( *21)( *22)( *23)( *24)( *25)

 また、いじめの増加も問題となっている。柳田ら(2019)は中学生を対象に愛着スタイル間のいじめのリスクを比較し、安定群と比較し、愛着の不安定さはいじめ行動の加害、被害ともにリスクが高いことを見出している。(*26)

 愛着と自傷行為との関連については、大平ら(2014)が、自傷経験を持つ大学生に不安定な愛着スタイルがみられることを指摘している。(*27)

 愛着と自殺の関連については、Adam(1994)が自殺行動と愛着:発達モデルを提唱し、各国で研究が進んでいるが、Miniati(2017)らは、世界各国で進められてきた愛着と自殺の関連を調査した23本の研究を比較検討し、自殺念慮や自殺企図は異なる精神病理学的領域に関連する徴候や症状の発生と不十分な愛着パターンが長期にわたって存在することとの相互作用の結果であることを見出している。(*28)( *29)

7.まとめ

 日本の学校は現在、不登校、いじめ、自殺、学級崩壊などの諸問題が深刻化している。そのすべての原因が日本の突出した低年齢長時間保育による愛着の安定性の問題にあると言うことはできないが、これだけの関連が明らかになっている以上、無関係であると考えることは困難である。

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 この論文は、2025年度日本乳幼児教育学会第35回大会にて発表した論文に文献リストを加えたものです。(*)

(*)

菅原 創, 低年齢長時間保育の子どもの精神保健面の育ちへの影響②―学校生活の諸問題との関連―, 2025, 日本乳幼児教育学会第35回大会研究発表論文集, pp.74-75

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引用文献

(*1)

OECD FAMILY DATABASE:Updated:June 2024

(*2)

Kathy Sylva,Edward Melhuish,Pam Sammons,Iram Siraj-Blatchford and Brenda Taggart, The Effective Provision of Pre-School Education (EPPE) Project:Technical Paper 12: The Final Report – Effective Pre-School Education,EPPE Project,Institute of Education University of London,2004

(*3)

The NICHD Study of Early Child Care and Youth Development,Findings for Children up to Age 4½ Years,U.S. Department of Health anD Human Services,National Institutes of Health,national institute of child Health and Human Development 2006

(*4)

Michael Baker,Jonathan Gruber,Kevin Milligan,The Long-Run Impacts of a Universal Child Care Program,AMERICAN ECONOMIC JOURNAL: ECONOMIC POLICY,VOL. 11, O. 3, AUGUST 2019,pp.1-26

(*5)

MDS Ainsworth, M Blehar, E Waters, S Wall, Patterns of attachment, 1978, Hillsdale,

nj: erlbaum

(*6)

M Main, E Hesse, Parents’ unresolved traumatic experiences are related to infant disorganized attachment status: Is frightened and/or frightening parental behavior the linking mechanism?, 1990, psycnet.apa.org

(*7)

Neil W. Boris, Charles H. Zeanah,, Disturbances and disorders of attachment in infancy: An overview,Infant Mental Health Journal,Volume20(1),1999,pp1-9

(*8)

山下洋,臨床に活きるアタッチメント研究の知見,こころの科学216,3-2021,pp23-29

(*9)

Meins E.,Fernyhough C.,Fradley E.,Tuckey M., Rethinking Maternal Sensitivity: Mothers’ Comments on Infants’,Mental Processes Predict Security of Attachment at 12 Months,The Journal of Child Psychology and Psychiatry and Allied Disciplines,V.42,I.5,July 2001, pp.637-648

(*10)

A.Slade, J.Grienenberger, E.Bernbach D.Levy, A.Locker, Maternal reflective functioning, attachment, and the transmission gap: A preliminary study,Attachment & Human Development,September 2005,7(3): 283–298

(*11)

Zeegers, M. A. J., Colonnesi, C., Stams, G.-J. J. M., & Meins, E., Mind matters: A meta-analysis on parental mentalization and sensitivity as predictors of infant–parent attachment. Psychological Bulletin, 2017, 143(12), 1245–1272

(*12)

N Senehi, HE Brophy-Herb, CD Vallotton, Effects of maternal mentalization-related parenting on toddlers’ self-regulation,Early Childhood Research Quarterly, 44, 3rd Quarter 2018, pp.1-14

(*13)

Nicola-Hans Schwarzer,Tobias Nolte,Peter Fonagy,Stephan Gingelmaier, Mentalizing and emotion regulation. Evidence from a non-clinical sample.International Forum of Psychoanalysis,V.30, 2021, pp.34-45

(*14)

Naiara Álvarez,Marta Herrero Lázaro,Leire Gordo,Leire Iriarte Elejalde,Ana Martínez Pampliega, Maternal mentalization and child emotion regulation: A comparison of different phases of early childhood, Infant Behavior and Development,v.66, February 2022, 101681

(*15)

Kim, B.-R., Stifter, C. A., Philbrook, L. E. & Teti, D. M., Infant emotion regulation: Relations to bedtime emotional availability, attachment security, and temperament. Infant Behavior and Development, 2014, 37, 480–490.

(*16)

Parada-Fernández, P., Herrero-Fernández, D., Oliva-Macías, M., & Rohwer, H., Analysis of the mediating effect of mentalization on the relationship between attachment styles and emotion dysregulation. Scandinavian Journal of Psychology, 2021, 62(3), 312–320

(*17)

Carli A.Obeldobel,Laura E.Brumariu,Kathryn A. Kerns, Parent–Child Attachment and Dynamic Emotion Regulation: A Systematic Review, Emotion Review, 2022, 15(1), 28-44

(*18)

Belsky J., The “Effects” of infant day care reconsidered,Early Childhood Research Quarterly,Volume 3, Issue 3, September 1988, Pages 235-272

(*19)

Nancy L. Hazen,Sydnye D. Allen,Caroline Heaton Christopher,Tomotaka Umemura and Deborah B. Jacobvitz, Very extensive nonmaternal care predicts mother–infant attachment disorganization: Convergent evidence from two samples,Development and Psychopathology, 2014, pp.1-13

(*20)

五十嵐哲也・萩原久子. 中学生の不登校傾向と幼少期の父親及び母親への愛着との関連, 教育心理学研究, 2004, 52(3), pp264-276

(*21)

植木田潤, 不登校事例にみられる不安の特性について,国立特殊教育総合研究所教育相談年報第27号, 2006, pp9-17

(*22)

姜信善・河内絵理, 親への愛着が子どもの学校適応に及ぼす影響について―親への安心・親密の観点から―,富山大学人間発達科学部紀要第4巻第2号, 2010, pp1-15

(*23)

崎田亜紀穂, 中学生における愛着スタイルが登校回避感情に及ぼす影響と学級機能の抑制効果,日本教育心理学会第58 回総会発表論文集, 2016, pp816

(*24)

林田美咲・黒川光流・喜田裕子, 親への愛着および教師・友人関係に対する満足感が学校適応感に及ぼす影響,教育心理学研究, 2018, 66(2), pp127-135.

(*25)

安原直見・進藤貴子, 親への愛着と友人関係の満足感が中学生時の不登校傾向と登校行動に及ぼす影響, 岡山心理学会第68回大会発表論文集, 2020, pp33-34

(*26)

柳田美智子、金丸隆太, 中学生のアタッチメント・スタイルといじめ行動の関連-新しいいじめアンケート作成の試み-,茨木大学教育学部紀要(教育科学)68号, 2019, pp533-552

(*27)

大平泰子,大石昂,鈴木賢男,松野真,堀内正彦,鈴木国威, 大学生における自傷行為と対人関係 ―愛着スタイルおよび感情イメージとの関連から―富山国際大学子ども育成学部紀要5, 2014, pp.11-18

(*28)

Adam, K. S. Suicidal behavior and attachment: A developmental model. In M. B. Sperling & W. H. Berman (Eds.), Attachment in adults: Clinical and developmental perspectives, 1994,  Guilford Press, pp.275–298.

(*29)

M Miniati, A Callari, S Pini-Psychiatria Danubina, Adult attachment style and suicidality, Psychiatria Danubina, 2017,v.29, no.3, pp250-259

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